判例

東京地判 平30・3・27

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賃借人の退去を前提とする土地・建物の売買契約において、媒介業者に定期借家契約の有効性等の説明義務があるとされた事例(東京地判 平30327 ウエストロー・ジャパン)

事案の概要

売主X(原告・個人)は、
別荘として使用していた
土地・建物(本件不動産)の売却を、
媒介業者Y(被告)に依頼していた。


しかし、購入希望者が現れなかったため、
平成277月、Aの媒介により、
賃借人Bとの間で定期借家契約
本件賃貸借契約・月額賃料135000
円)
を締結した。

この時、
借地借家法382項規定の書
(法38条書面)
の交付
はされなかった。


賃貸借契約から1年後の
平成287月、

X(原告・売主)、本件賃貸借契約を
平成2810月から平299月まで延長する
覚書をB(賃借人)締結した。


その後、
本件不動産の
購入を希望するC
が現われた。

Y(被告・売却仲介)は、
X(原告・売主)
より
平成299月までB(賃借人)
「退
去を求められない」旨を聞いた。

よって、
Y(被告・売却仲介)は、
その退去日(平成299月)を前提に
X(原告・売主)C(購入希望者)との間で
売買条件を取りま
とめた。


平成28123日、
X(原告・売主)C(購入希望者)は、
売買契約(本件売買契約)を締結。

Y(被告・売却仲介)
売買金額を4000万円
違約金を
800万円


しかし、
X(原告・売主)B(賃借人)
本件賃貸借契約の終了を通知したところ、

本件賃貸借契約は
定期借家
契約の効力を有しない。
X(原告・売主)の本件不動産売却は
更新拒絶の正当理由ではない。」

としてB(賃借人)退去を拒否された。


X(原告・売主)は、
本件賃貸借契約が解除できなければ、

債務不履行により
違約金800
万円の支払いが必要
となることから、

B(賃借人)との交渉により
解決金288万円を支払う
ことで本件
不動産の明渡しを得た。


X(原告・売主)Y(被告・売却仲介)に対し、

Y(被告・売却仲介) は、
関係書類一切の提供により、

本件賃貸借契約は
法38条書面の交付がされておらず、

定期借家契約と評価する余地がないことを
容易に認識し得たにもかかわらず、

本件賃貸借契約が適法な
定期借家契約に疑義があり、

Bが退去を拒否した場合、
800万円の違約金を
支払わなければならないという 、

X(原告・売主)の
売買契約締結の判断に

重大な影響を及ぼす事実を
説明しなかった。

Y(被告・仲介)にはX(原告・売主)に
不測の損害を生ぜしめないよう
配慮すべき注意義務違反がある。」

として、
本件解決金のほか、

逸失利益、慰謝料、
弁護士費用等、

829万円余の
損害賠償を請求した。

これに対してY(被告・売却仲介)は、

X(原告・売主)の損害は、
本件賃貸借契約が

定期借家契約として無効
であったことに起因するものであるから、

本件賃貸借契約を締結した者に
請求すべきもので、

本件売買契約の仲介者である
Y(被告・売却仲介)が
責任を負うものではない

などと反論。

判決の要旨

裁判所は、
次のとおり判示し、

Xの請求を一部認容した。


Y(売却仲介)の義務違反

(1)本件売買契約における媒介業者は、
媒介契約の受任者として、

売買契約が支障なく履行され、
委任者がその契約の目的を

達成し得るために
必要な事項について調査し、

これを委任者に
適切に説明する義務を負う。


(2)本件売買契約においては、
本件不動産に

定期借家契約とは評価されない
本件賃貸借契約
が存在
していたため、

B(賃借人)が退去を拒んだ場合には、
本件売買契約の条件とされていた

平成299月までの
明渡しを達成できず、

X(原告・売主)C(購入希望者)
同契約を解除され
800万円の違約金支払義務を
負担するおそれがあったことが
認められるところ、

Y(被告・売却仲介)は、
本件売買契約締結前の時点で、

X(原告・売主)から
本件賃貸借契約書及び
本件覚書を交付されたことにより、

本件賃貸借契約が
定期借家
契約とは評価されず、

B(賃借人)が上記期日までに
退去しないおそれがあるとの

本件売買契約の目的達成に
影響を及ぼす事情を認識していた
にもかかわらず、

合理的な理由なく、
本件売買契約
締結までの間に、

上記事情をX(原告・売主)
説明していなかった
のであるから

Y(被告・売却仲介)には
媒介業者として

説明義務違反がある。


(3)Y(被告・売却仲介)は、

()本件賃貸借契約の締結に
関与していなかったこと、

()同契約には
専門の仲介
者が入っていたため、

38条書面の交付がないとは
考えられなかったこと、

()X(原告・売主)
本件賃
貸借契約は

定期借家契約として
有効だと話していたこと、

()X(原告・売主)から、

本件売買契約締結が終了するまで
B(賃借人)に連絡をしないよう強く言われ、

B(賃借人)に本件賃貸借契約の内容や
退去の意向を
確認できなかったことから、

できる限りの調査を尽くしても、
本件賃貸借契約が定期借家契
約としては

無効であることを容易に
知り得なかった旨主張する。

しかしY(被告・売却仲介)は、
本件賃貸借契約書及び
本件覚書の内容から、

本件賃貸借契約が
定期借家契約

評価を受けるものではない
ことを認識していたものと
認められる

などの事情に照らすと、

()()の事情をもって
Y(被告・売却仲介)

「説明義務違反がない」
とはいえない。


Xの損害について)

Y(被告・売却仲介)
義務違反行為と相当因果関係のある
X(原告・売主)の損害として、

本件解決金288万円及び
弁護士
費用相当額29万円

が認められることから、
Y(被告・売却仲介)

317万円をX(原告・売主)
支払うべき義務を負う。

まとめ

賃貸人の地位を引きいでの
不動産売買、
いわゆるオーナチェンジもあるが、

今回は、賃借人の退去
を条件とした賃貸中の土地・建物の売買契約。

 

賃借人に退去を拒まれた場合、
売主は契約を履行できない状態
に陥ってしまう。

本件は、
「定期借家契約が有効ではない」

として賃借人より退去を
拒否された事案です。

仮に有効であったとしても、
賃借人に退去を拒まれた場合、

賃借人の退去を得るためには
裁判所の判決を得る必要がある

ことから
(参考:東京地判 平26108)、

賃借人退去が売買条件
である場合においては、

定期借家契約か否かにかかわらず、
媒介業者は契約当事者に、

賃借人が予定通り退去しなかった場合の
取決めを特約として置くなどの
助言を行う必要がある。

なお、
定期借家契約については、

38条書面の交付がなければ
通借家契約

として取り扱われること
(最一判 平24913 RETIO88-108)、

定期借家契約について
更新したとすると

普通借家契約として更新されること
(参考:東京地判 平27224 RETIO101-114

 この2点は、

 

宅地建物業のうちの、

売買仲介ならびに、

 

賃貸仲介を行う場合は、

気をつけましょう。

 

なお、

オーナーチェンジの売買仲介でも、

 

上記の2点はもちろんのこと、

賃貸借契約の条件、

 

契約期間、敷金の有無や、

保証人、その他の特約など、

 

十分に確認することは

基礎中の基礎ですね。

 

参考:RETIOメルマガ第158号(2020-01-01)

  • この記事を書いた人

Rio

宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士 和歌山を拠点に、二地域居住を実現。また外国人の日本不動産購入のサポートのため日本全国を飛び回る。 宅建士受験サポートの他、不動産仲介開業サポート・コンサルタントとしても活躍。趣味は購入した中古物件のDIY。不動産の運用、購入・売却などの他、DIY に関することの相談も受け付けている。

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